金子裕美
体育の教員経験や子育て経験を生かして、主に教育、スポーツ、キャリア分野の取材記事を執筆しています。外国人の方にインタビューする機会が増えつつあり、通訳を介さずにやりとりしたくなって、遅ればせながら英語の勉強を始めたところです。中学レベルから頑張るぞー! バレーボールNEXtブログ http://vbnext.com
BALNIBARBI RECRUITING
金子裕美
グッドモーニングカフェでシェフに昇格した山下は、料理人の本分である「お客様を喜ばせること」に一切妥協しまいと心に決めた。
「これはバルニバービの考え方でもあるのですが、店を出る時にお客様が満足していれば、必ず身近な方を誘ってまた足を運んでくださいます。常にお客様の絶えない店になれば、売上は間違いなく伸びるので、数字(売上)ではなく、お客様を魅了するいい店を作ることを目標に知恵を絞りました」
料理でいえば、グッドモーニングカフェはカジュアルな店なので高級食材は使えない。原価に限界がある中で、下処理をきちんとするなど、リーズナブルを超える料理を提供するためのポイントを明確にした。
「チキンのプレートを作るとしたら、余分なドリップをペーパーで拭き取って、塩とローズマリーとニンニクで香りをつけて、上手にフライパンでソテーします。それにおいしいソースをかけて野菜を付け合わせればレストランと同じ逸品になりますよね」
お客様の評価は価格とのバランスで決まる。どんなに忙しくても妥協せず、しっかりやり切るということを自ら率先して行い、浸透させた。
お客様を喜ばせたいという山下の思いは、料理を超えて店づくりにも及んだ。
「バルニバービがオープンキッチンを採用している理由は、キッチンにいてもお客様に目が届くように、という思いがあってのことだと思うんです」
お客様はくつろいでいるか、料理を楽しんでいるか、私たちに求めていることはないか…。ホール、キッチンの壁なく目を行き届かせて、連携しながらきめ細かく対応できるチームを創り上げた。
「僕が千駄ヶ谷の店に来た時、そこで働いているスタッフがいたので、まずは自分が仲間に入れてもらうためのコミュニケーションを上手にとって、いい営業をしていくぞという目標を共有することに力を入れました。それをみんなで実行し、できているという実感を得られるようになれば、自然とチームの絆は深まっていきます」
チームづくりで大事なことは、仕事における“楽しい”の意味を共有することだという。
「僕の仕事の“楽しい”は、気分よく働くことではありません。お客様の満足度につながるよう、料理のクオリティはもちろん、サービスにしても雰囲気にしても掃除にしても、みんなが妥協しないでできることなんです。お客様に『来てよかった』と思って帰っていただく、それがすべてなので、アルバイトスタッフにも僕の“楽しい”を理解してもらい、プロ意識をもつよう指導しました」
オシャレなカフェで働きたいという人は多く、アルバイトの採用には困らなかったが、軽い気持ちで応募してくる人がいた。そこで面接時に仕事へのこだわりを話して、共感してくれる人を採用するなど、効率よくチームづくりを進めた。
こうしてさまざまな方向から努力を重ね、スタッフが力を合わせてお客様に喜んでいただける店づくりに邁進することで、グッドモーニングカフェは地元の人が足しげく通う、愛される店へと変貌を遂げた。貸借契約満了により閉店を余儀なくされた際に、存続を熱望するお客様が、自ら動いて場所を探してくださったことからも、いかにお客様を大事にしていたかがわかるだろう。
グッドモーニングカフェは千駄ヶ谷の成功を機に、池袋、中野、早稲田など、各地で産声をあげることになった。チェーン店ではない。1つひとつの店が、シェフの思いのこもった店づくりをしているが、料理のクオリティを確認したり、料理人の教育を行ったりする人が必要との判断で、大ブレイクの立役者・山下が、それらの店舗を統括するポジションに抜擢された。
「そこから、徐々に自分のできることをしてきて今に至っているのですが、評価されたとしたら、担当する店舗が増えても千駄ヶ谷店でやってきたことをブレずに浸透させたことだと思います」
現在は、関東の全店にまで担当エリアを広げて、人材の発掘や育成に取り組んでいる。
「僕の長所はバランス感覚のいいところ。料理人には個性の塊のような人がたくさんいますが、誰とでもうまくつき合えますし、一人ひとりの持ち味を見つけて、うまく生かすこともできます。そういう能力を会社に必要としてもらえたことはラッキーでした。料理人として技術だけをみれば、この会社でも一番ではないかもしれませんが、人を見る目では負けないと思います」
「なりたい自分になる」というバルニバービのテーマを地で行く山下にその秘訣を聞くと、こんな答えが返ってきた。
「僕はバルニバービに入った時、なりたい自分をイメージできていませんでした。でも、チャンスを与えてもらい、それに全力でトライしたら、自分の持ち味に気づくことができ、自分を生かせる仕事に就くことができました。こんな僕でもなりたい自分になることができたので、誰にでもチャンスがあると思います」
そう考える理由は2つあるという。1つは料理人一人ひとりをよく見ている会社であるということだ。
「失敗しても、見捨てずに見ていてくれたから、今の自分があります。再びチャンスを与えてもらった時は、自分の店という心構えでしっかりやろうと思いました」
もう1つは、自分らしさを生かせる会社であるということだ。
「料理人の数だけ、いろいろなやり方があっていいという考え方なので、自分らしくトライすることができたんです。バルニバービが『自由度の高い会社』と言われるのは、その人その人の持ち味を生かして、代表の言う“いい店”を創れる社風だからです。この規模の会社で、そんな店づくりをしている会社はそうそうないと思うので、巡り合ったことに感謝しています」
グランシェフがいる東京に憧れて上京し、20年あまり。
「鹿児島にいる時は、今のような仕事に就くとは全く思っていませんでした。いろいろな料理人と出会い、学んだことを教えることができる仕事はやりがいがあり、どんな経験も無駄にはならないことを実感する毎日です」
手元に集まる情報だけでなく、実際に店を訪れ、キッチンに立って一緒に働きながらポテンシャルの高い人材をピックアップしていくのが山下のやり方だ。
「料理人の価値は、技術や経験だけでは計れません。ちょっとした所作やコミュニケーションの取り方など、自分の目で見なければわからないポイントがあります。だからできるだけ店に入って一緒に仕事をし、コミュニケーションをとるようにしています。向上心をもって行動している人は光るものがあるので、見逃しません」
今はまだ実力が足りなくても、いずれ戦力になるであろう人に、その後も心を配ることを忘れない。その人が今、取り組んでいることや次に目指すことをヒアリングし、的確なアドバイスを送りながら成長を見守っている。僕ができたんだからみんなもできるよ、という愛情をもって−。
この記事を書いた人 & 編集後記
金子裕美
体育の教員経験や子育て経験を生かして、主に教育、スポーツ、キャリア分野の取材記事を執筆しています。外国人の方にインタビューする機会が増えつつあり、通訳を介さずにやりとりしたくなって、遅ればせながら英語の勉強を始めたところです。中学レベルから頑張るぞー! バレーボールNEXtブログ http://vbnext.com
「食通の母が、何を作れば喜んでくれるのかなと想像しながら料理を作り、おいしい!と言ってくれた時の喜び。それが僕の料理人の原点」という山下さん。人生を花開かせるには、同じ理念をもつ場所で働くことが大事なのですね。ご両親に始まり、さまざまなシェフから薫陶を受けてきた山下さんのストーリーを聞いて、人生にはいいことも悪いことも含めて無駄なことは1つもないと感じました。